遠 出
村の駅の分岐点で別れた電車の片方が
黄色い虫のように牧草地を南へ行き
私の電車も幾人かの乗客を乗せて
西の方へと向かった
薄灰色の浮雲から
パラパラと降って来たような羊が
車窓を次々に遠去かり
前に座った初老の男は楽譜を広げて
タクトを振る動作をする
今日が私の誕生日だと知る由も無いのに
天から遣わされた老いた天使のように
音の無い曲で祝ってくれる
終点のひとつ手前で
老いた天使は降りて行き
私は音符で少し重くなったリュックを背負い
終着駅から
羊と草の湿った匂いの中
森へ通じる道を歩き出した