そこは半島のはずれで 雨雲を溶かしたような 灰緑色の潟に浮いた町 夜のうちに港を越えて 海水は広場に押し寄せ 周りの家々は水の中に在る それでも人々は黒いコート姿で 朝のミサに間に合うように 広場に渡した木道の上を 瀟洒なドームを抱く サンマルコ寺院へ入って行くのだ
ベネツィア
私のもうひとつの心が 仮面を付けたまま 横道に見えつ隠れつ おどけたように私を誘う ビーズのような雨の中 私はミサを諦めて タガの外れたもうひとつの心が 消えた扉を開ける