旅行会社の扉を開けた 細い白い雨の降る 春も終わりに近い午後 夏のカタログを広げて 係の女性は言った 「飛行機はここに着きますが 村まで三時間 ご自分でバスに乗って行くしか 手だてがありません いいでしょうか」
青紫の海辺を走る古いバス 赤桃色や真っ白な夾竹桃の群
「ええ、予約をお願いします」 傘を取り上げて扉に向かう私に 係の女性は言った 「もしかしたら車窓から ドルフィンが見られるかもしれません」 私は無言でうなずくと 傘をささずに歩き出した
黒く濡れたドルフィンを思った