夏
アメリカ資本のカフェは
あまりに混んでいるので
ガラス張りのスモーキングルームに
やっと席をみつけ
ガラスの部屋に閉じ込められて
苦いエスプレッソを飲みながら
青紫の煙にむせかえる
すっかり脂肪をなくした
ジャコメッティの彫刻の体は
咳き込む度に
関節の擦れ合う音が
キーンキーンとガラスに反響する
今年の夏は
こんな風に過ぎて行く
やがてジャコメッティは立ち上がり
頭は青紫の煙でいっぱいで
前頭葉に重心が移動し
嵌め込み細工の床に
関節のはずれる大音響とともに
脚を宙に浮かして
倒れ落ちていく