灯り
ふと旅に出るときに
ホテルの予約はしない
小さな町の小さな宿の
オレンジ色した小さな灯りを
めざして行く
それが旅の目的
そんな宿にはかならず
迎えてくれる懐がある
「開けて、開けて、開けてください」
私は深夜に扉を叩く
家にオレンジ色の灯りはなく
私は心の薄青い炎をたよりに
暗い部屋に入る
旅のかばんを降ろしたり
濃いコーヒーを淹れたり
シャワーの栓をひねったり
薄青い炎は下を向いたり
揺れたりするが
悲しさとか嬉しさとかではなくて
旅のちょっとした満足感と疲れとで
少し白みがかった色をしている