果樹園の外で
姉は
機械技術者と結婚し
定刻通りに帰宅する夫を待ち
清いつぶらな子供を育て
小さな不平を並べながら
大きな不満をもつことなく
与えられたキャンバスに
ささやかな色彩で
確実な輪郭をなぞってゆく
妹は
遠い位置に向かって旅立ち
途中で出逢った幾多の恋人たちを
傷つけては生きのび
傷つけられては傷口を嘗め
それでも旅を止めることなく
キャンバスはとうの昔に
旅行鞄へと姿を変えた
姉 妹
同じ果樹園で生まれ
同じぶどうの実を食べて育ち
手を繋いで歩いていたのに
今は閉ざされた門の前で
心配そうに瞳を覗きこみながら
ぎこちない挨拶を交わす
互いの体の中の異分子を確かめ合うように
そして次には昔のように
そっと手と手を触れてみる
「救けてください」と
互いの指先が言っている
もう果樹園の門を開ける鍵はないけれど
同じぶどうを食べた指を
白い人さし指と人さし指を
子供の頃のようにからませる