野ガモの群れが 北を指して翔んで行く時 大きな柔毛の犬と 小さなわたしは ほほを寄せあって 空を見ていた —君も昔鳥だったの? この時季になると 昔翼の生えていたところが むずがゆかったり チクチク痛んだり
—だけどどこへも行けない —今はどこへも行けない 翼も それから愛も勇気も力も無いから 小さなわたしは大きな犬の瞳にいつまでも映っている 野ガモの三角形の影を見ていた 自分と犬の翼の跡を片手でさすりながら 野ガモの影を追っていた