婆(ばば)の窓
バスを降りる
白いワンピースに麦わら帽子の婆
重い荷物を持ってくれというので
一緒に歩き出す
婆の家は丘の中腹
私の家の丘と
バス通りをはさんで向かい側
婆は話す
ニーチェ、ゴーリキー
サルトル、三島由紀夫
告白するように言う
アメリカに住んでいたと
アメリカ、アメリカ、アメリカ
聞いたことのない町の名前
婆の愛してやまない田舎町
家についた途端
婆は無言で荷物を受け取り
急に怖い声で
「バーイ!」と言って
ドアを閉めた
確かめるようになった
婆の窓に灯りがともっているかと
三ヶ月ともり
その後は真っ暗
婆は引っ越したのかもしれないし
遠くへ旅立って行ったのかもしれない
アメリカの町を見下ろし
それより遠い彼方へ