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Time To Time 1993-1995 : 36-2
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羊と遊んだ


土手の向こうは青い牧草地で
その向こうには湖が広がっていた
湖はあまりにも大きいので
海のように水平線が丸くなっていた
この北の国で馬の花と呼ばれる黄色い花を
わたしはひとつふたつ摘んでいたが
顔を上げると羊がいた
よけて通ったが土手道を
羊は当然のように付いて来た
土手を下っても付いて来たし
湖に足を浸すと
羊の緑黄色の瞳に波が映っていた
羊はどこへでも来た
空になら来ないだろうと思って
天に掛かる階段を昇ってみたら
羊はゆっくりと段差を確かめて昇って来た
羊と遊んだ
夕刻になり車に戻ると
羊もバックシートに座っていたが
湖をまたぐ県境の橋の所で
羊は黙って降りて行った
湿った動物の匂いが残った
家に帰ると電話が鳴った
「僕だけど、どこへ行ってたの?
今日は八時には帰れるから」
人間の同居人の声がした
「うん、羊と遊んだ」
「そう、よかったね」
電話が鳴った
「… … …」
「今日はどうもありがとう」
湿った動物の匂いがして
電話はそっと切れた

Time To Time 1993-1995

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