石 段
海に続く石段を
降りてゆく黒いコート
海が見えているのに
どこまでいっても海に着くことはなく
いつのまにか空へ続く石段
空が緑青色だから
きっと今ごろ遠い海に
太陽系の端から銀色の魚が
とめどなく降っているかもしれない
こんなときは考えるのは止めて
過去の染みついた思いを
仲良しのハシボゾカラスに
ビスケットといっしょにやってしまおう
海へ続く石段を降りてゆくと
岩陰で半漁人たちが
見たことのない銀色の魚の大群について
ヒソヒソと話している
ハシボゾガラスが
ビスケットと過去の染みついた思いを
砂と混ぜ合わせながら食べている
黒いコートを着た私は
そっとすり足で浜辺を歩くが
ここが浜辺ではなく空かもしれないと気づく
あたり一面が緑青色で
遠く深いところから
また銀色の魚の大群が飛んでくる