貯水池
空港からヨークシャーへ
迎えの車は街道沿いの村を過ぎる
蜂蜜色の石造りの家々
「騎士の盾」とか「スワンの池」とかの
ホテルやレストランの看板
村は戒厳令が出たかのように無人
運転している初老の男が村のはずれで
「貯水池」と言う
緑に囲まれてそれより碧の水面
名前を知らないグレーの鳥が
列をなして浮いている
私はこの村に一度来たことを思い出す
かつての同居人と来たときに
手をつないで歩きながら
貯水池の畔で感じた不安
初老の夫妻の友人のもとで三日間過ごし
また空港へ向かう道
来たときと反対側に貯水池
あのときと同じように
同居人と自分の髪、爪、骨が
水面に浮いてキラキラと光る
遠ざかる貯水池
カルシウムを失った肉体は
助手席でユラユラと揺れ
初老の男の来夏の予定など聞きながら
三半規管も溶け始め
狭い視野を
グレーの鳥の群れが斜めに横切る