異 変
降ればどしゃぶり
キッチンの攪拌用ボウルか
ガラスの金魚鉢くらいの大きさの雨粒が
大音響とともに降り注ぐので
傘は揺れ 木は傾ぎ
塀は倒れ 屋根が落ちる
普段はみない長虫が
足元を流れてゆく
やがて谷は浅い海となり
私は電信柱につかまりながら
それでも
あの人を好きになってよかったと
思っている
雨雲の去ったあと
景色はすべて灰色で
谷も山もなくなって
四方がすべて地平線に
太陽がふたつ黄身を落としたように
少しゆがんで浮んでいる
人々はたちつくす
どうしたらいいのか分からずに
太陽が北と南とに
同じ速度で沈んでゆく
明日はなにが起きるか分からないけれど
あの人を好きになったのだからよかったと
思っている