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敬称は付けないのか?
かの市役所結婚式担当者だって新郎新婦をセニョール&セニョーラと称していたぞ。
私は「Sr. Ken Nakajima」や「Don Ken Nakajima」または「Ken Granuja Nakajima」なんてぇのを一生懸命探していたのだ。
郷には入れば郷に従えとは言うけど、なかなか従えないものもあったりで、こういう場面で名前だけの呼び捨ては、さすがに大好きなスペインとは言えども、引っかかるところがあった。
「Ken」だけなんてあまりにも簡素過ぎる。これじゃ犬の名前だよ。わんわん〜。
呆気に取られながら自分の席に行こうとしたら、誰かが座っていて隣の美女と話をしていた。
「そこ、私の席だよ。」
「あ、そうなの?私の席はあそこだけど、空いているよ。」つまり、あっちへ座れということか?
「どけ、フニャチン野郎〜!」とは、さっきの座席表でやや憤慨していた私であったとしても、こういう場所でこのように言う教育を受けていないので、とぼとぼとそいつの席に向かった(寂寥感×2)。
300人以上は招待されていたので丸テーブルが沢山ある。
いろいろな人たちがいろいろな所からやってくるので、どの人をどの座にするかによって招待者の宴会に対する印象も変ってきて、そこのところが幹事の腕の見せどころとも言えるが、どうしても余ってしまう人たちがいて、「吹きだまり専用テーブル」ができてしまう。
私の席はどうやらそんなテーブルに当たったようだ(涙)。
みんな初対面なのか自己紹介が始まっている。
新郎の父の弟の従兄弟の姪だとか、新郎の妹の義理の旦那の親父の兄でとかで横溝正史風家族構成が複雑で、名前もホァンとかペペとか似たようなのばかり。IQ120を超えていないとまずその場で覚えられないだろう。そしてたいていこういう席には美女はおらず、夫婦ものか年取ったおじさんとかだけである。
いくらスペイン語が喋れるとは言っても1年間勉強した分だけの陳腐さのところに、こんな未知の人たちと共通のネタを探しながら上手くコミュニケーションなんてできるわけがなく、その気遣いへもうんざりだ。
さっきの座席表と言い、席のことと言い、このテーブルもしかり、どうも今日は鬼門だらけだ。適当に切り上げてホテルに戻ってふて寝しちまおうかな、とかなりのブルーが入っていた。
トイレにでも行ったのだろう、隣の2つの席が空いていた。
式の始まる直前に2人が戻ってきて良く見れば、先ほどの中庭にてホァキン(新郎の父)に紹介されて一緒に飲んで話をした彼の同級生夫婦だ。
広大な砂漠を彷徨する中にやっとオアシスを見つけた気持ちってこのような時だろう、思わず笑顔が出て「また、会いましたねぇ」。
向こうも同じような印象をこの丸テーブルに持っていたのだろう、似たような笑顔が帰ってきた。
彼はグァディックス出身、奥さんはバスク出身で、今バスクに住んでいるとのこと。
歳は私より少し上で、11才になる一人娘がいるとのこと。何回か彼は「一人娘だから」を強調していたが、子だくさんのスペインにおいて一人っ子は珍しいのかもしれない。日本ではいろいろだから珍しくないことだけど。
歳も近い一人娘となれば、話のネタは親バカしかあるまい。
披露宴なんてそっちのけで、こちらが携帯画像で娘の写真アルバムを見せれば、向こうは、娘との携帯メールを見せてくれた。お互いこれから思春期に向かう娘への心配ごとなどを話し合い、すっかり父兄懇親会となり、先ほどの鬼門続き気分は一気に吹き飛んでしまった。しかし、スペイン人の親バカというのは初めて見た。存在しないと思っていた。ノリは日本と同じだ。
隣で奥さんは、どこかで見たことのあるような嘲笑を含む笑顔で私達二人のアホ談義を聞いていた。思い出した、時々うちのカミさんがこういう表情をする。