りんご
昨夜高邁で不遜な決心をしたのに
今朝は謙譲と不安とに包まれている
外に出ると空気に刺されると思ったが
コートを着て急かされたように歩き出す
角を曲がったところで
まだ八時だというのに
掘り出した配水管の上で
緑色の安全服を着た工事人が
小さなりんごを食べている
「おはよう」と呼びかけ
りんごをひとつ投げて寄こす
「ありがとう」
「いいんだよ。俺んじゃないんだし」
工事人のそばにりんごの木が在り
りんごが光を反射している
工事人の笑い声に送られて
りんごを齧りながら歩き出す
「よし、今日の会議で
やはり言うだけのことは言ってみよう」
少し軽い気持ちになって
バス停に向かう