ふところに羊を抱いている ごわごわとした毛は奥深く 手首まで埋もれてしまう ふところに牛を抱いている 湿った鼻は冷たくて 漆黒の瞳は鏡のよう ふところに雨雲を抱いている 灰色の雲の固まりも つかめば青い霧になる
バスに座って ふところに 私は草原を抱えている 羊と牛がそれぞれに鳴き 帰る地を私に催促する 雨雲は分かったように 心に雨を降らせ始める 帰る地がどの方向にあるのか 今となっては分からずに 私はもう数年も 遊牧民となって さまよっている