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もともとは大きな一軒家に家族全員で住んでいたのだが、私の親友でもあった相方のパコが不運にも交通事故で亡くなり、今はその家からちょっと丘の上に登ったクエバに、パコの愛用していた自転車と一緒に1人で住んでいる。
何処の国でも家族の絆や家族愛は強いものだけど、スペインのそれはより強く感じるのは私だけではあるまい。
しかし、爺ちゃんか婆ちゃんのいずれかが亡くなると、残った方は必ずその家を出て独り住まいをするのがスペインでは良く見かける。いや殆どだ。
私の知らないもっと奥底で嫁と姑の軋轢とかがあるのだろうか?取り立ててそれでいがみ合う様子は見えないし、離れていてもそれぞれが親しく頻繁に行き来している。
それならば、そんな面倒なことはせずに最初から一緒に住めば良いのに、と思うのは日本人感覚なのか。私にとってのスペイン不思議の一つである。
彼女の家の前からは町が一望できる。
手前に駅が見え、踏み切りを交差する県道が中心地へ一直線に伸び、そしてその行き止まりにはアンダルシア県内屈指の大きな大聖堂がそびえ立っている。
町はその大聖堂を中心に円を描くように広がっており、それをまた外輪山が囲んでいる。そしてそれら全てを見下ろすように雄大なネバタ山脈が一番奥に控えている。
ここからの景色が一番好きだ。
あちらこちらに電線と広告看板がはびこっており、決して綺麗とは言えないが、自然と人間が作った町並みが上手く調和し、観光名所然とした美しさとは違った人の温もりを感じるような、その折衷美が何よりも美しいと感じるからだ。
そして、ここから見る風景はとても静かだ。
乾燥している風土だからだろう、全ての音が地面に落ち伏せているような凛とした空気が伝わってくる。はっきりと見える遥か遠くの山並みの音がこちらまで聞こえてきそうなくらいだ。
入り口の扉を開いて中に入ると、あの乾いたオリーブ油の臭いが鼻腔を突き、ひやっとした空気が私を出迎えてくれた。
「ケン、昼飯食べていないだろ?目玉焼きとウインナーがあるよ。」突然彼女は言った。
「うん食べる。目玉焼きは大好きだよ!」
しかしだ、高齢の彼女は腰が曲がり、その腰を曲げながら私の料理を一生懸命作ってくれている。老人虐待か?と罪悪感にかられ、
「目玉焼きぐらい私が作るよ。」
「いやいや、私の料理は最高だよ。マリ(私のカミさん)だって私の料理が好きだろ。」
そう言えば、まだ小学生の頃、おやじの田舎(福島県白河市)へよく遊びに行ったのだが、田舎料理が口に合わず殆ど食べられなかった。みかねて田舎のばあちゃんが私用にと小さなフライパンで目玉焼きを良く作ってくれて、その美味さが今でも忘れられない。
パキータ特製の美味しい目玉焼きを食べながら、その昔を思い出した。この歳になって、ばあちゃんが作ってくれた料理を食べるのは何よりも幸せだ。
また来るね、パキータ。