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 さようならアムステルダム

さようならアムステルダム
トーキョーに帰る日が決まった時に
馴染んだ町の光景が異国の影に沈んだ

私はこの国に魂を奪われたわけじゃない
影を背負ったような羊の群れや
鉛を含んで沈黙したような北の海は
私の心を不安にした
町に戻って黄色い市電に乗ったり
カーブに沿って運河沿いの道を歩いたり
ハンスやアネカと
カフェで話し込んだりしているうちに
この町の温度が内臓に染み渡り
私の魂は煉瓦の壁にそっと手を置いた

辞書を引いて最初に覚えたフレーズは
Ik houd van …(…が好き)
心魅かれた建物のスタイルが
アムステルダム・スクールだと知ったのは
ごく最近のこと

さようならアムステルダム
わずかな家財道具を船でトーキョーに送り
ナンバー12の荷箱に私の魂も半分詰めた
今頃は確信を持って東に向かう船のハッチで
途方にくれているに違いない
トーキョーという町が東京になるまで
いったいどのくらいの時間がかかるのだろう

残り半分の魂を小さく砕いて私はそっと置く
4番トラムの座席の隅や
修道院のマリア様の像の足元や
プリンセン運河に面したカフェの窓辺に
あの人とあの人の郵便受けにも
小さな透明な箱に入れて投げ込む
それはいつまでも気付かれないままに
青い燐光を放っているのだ

さようならアムステルダム
いつか全てのものが幻影となっても
私は夜の運河沿いの道を
蒼い影となって歩いている

Time To Time

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