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 猫が浮かんでた

退職の挨拶が終わった日の夜
次の日にならないうちに
ゆっくりお風呂にでも入ろうと
草津の湯という入浴剤を入れて
いつも通りに半分開いた風呂蓋の上に猫が座り
シャワーで髪を洗っていたのだ
シャワーの音で気付かなかったのだけれど
猫が浮かんでた
事体を正確に把握しなければと
妙に冷静な頭になってしまい
猫を草津の湯から抱き上げて
バスタオルで拭いてやったり
手足を揉んでやったり
人工呼吸の真似事もしたりしたのだが
湯気が消えて猫は時の向こうに冷えていった
ストーブの側で猫を抱いたままウトウトしたが
冬至過ぎの夜が明ける前に
植木鉢用のショベルと猫を持って
マンションの非常階段をそっと降りて
共同庭の人目のつかない所で
カツカツと堅い土を掘った
ダンボールに入った猫を埋め
もう一度部屋から取って来た
退職祝いに貰った蘭の花束と
猫がすきだったキウイーを供えて
最後の星が消える前に
突然の旅に出発した

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