1階の公設市場

あらかじめ言っとくと、私は北の人間なので食べ物の基本は醤油であり味つけも濃い目なので、どちらかと言うと全体的に薄甘味である南の食べ物は苦手であり、あのスペインであっても南部の料理には塩をたつぷりかけてヒンシュクを買ったもんだ。
最悪、オリオンビールを台湾ビールみたくガチョンガチョン飲めれば良いなと思っていた。酔いつぶれ支離滅裂の何処にいるんだ状態の法則。

この公設市場は、体育館ぐらいの大きさの中に所狭しとたくさんのお店が入っていて、活きの良い魚介類だけでなく肉類や乾物も売っている。希望があればそこで買ったのを2階で調理してくれて食べさせてもくれるそうだ。えッ、2階だって?
顔が伊勢エビになっているカミさんは、麻薬捜査犬のように獲物に向かって一直線。
あれまッ、伊勢エビ天こ盛りのコーナーがあるぞ、
「これ伊勢エビ」思わずお店のおねえさんに聞いてしまった。
「これは沖縄近海で捕れた伊勢エビで、こっちはオーストラリア産ね」
伊勢エビの「伊勢」は「日本人が一番好きな」と云う意味らしい事が沖縄に来て初めて分かり、有意義な旅行である事を実感した。

カミさんが選んだ大き目のヤツは2800円だそうで安いと喜んでいる。子供の頃、ザリガニ釣りに興じまくった私は、それが280円だって買わないし食べない。何も沖縄の魚介類は伊勢エビだけじゃないぞ、ってな感じで食べられそうなのを物色するのだが、どうもこれが見た事もないような形状と色彩をしているのが多いのだ。水族館では良く見かけるのだが。
カニもあったのだが、これが深緑色した薄っぺらい平目みたいなホフク前進風ミリタリー仕様形状色彩をしていた。あわび、はまぐり系の貝を探したのだが、これが良く博物館とかに飾ってある貝の口が波状の世界で一番でかい貝の種類の子供版みたいなヤツだった。隣を見ると熱帯魚が突然変異で、そう、エビラのようにデカくなったようなのが横たわっていて、こちらを睨んでいる。ガンを飛ばすな。
お店のおねえさんがそんな苦悩の私に悪魔の囁きを、
「伊勢エビだけだけじゃ足りないですよね」
まぁ、これだけじゃショーバイにならないよね、って、人の商売を心配している場合か、私は。

待望の待ちに待った伊勢エビをゲットしたカミさんは余裕で
「ケンちゃんも何か選んだら」
「おねえさん、鯛とかサザエってない」
「お兄さん、両方ともあるよ!」って出てきたのが、甘露煮みたいな色をした30cmぐらいの鯛だと思われる魚。どう見たって私の知っている黒鯛から遠い。ま、こんなのでも刺身にしたら同じだろうと思って、次の沖縄のサザエを見たら、あのカタツムリの角のない表面がツルツルした、そうエスカルゴの殻みたいな形状。色彩も南国サービスで七色の鮮やかなレインボー渦模様。
追い打ちをかけるようにおねえさんが言った。
「沖縄は、あまりサザエの壷焼きは上手じゃないのよね」つまり関東で良く見食する調理方法の事を言っているのだろうか。
「あ、いいのいいの、醤油だけ少し垂らしてそのまま焼いてくれればOKだ。ダシだとかカマボコは要らないよ」
だんだん悪い予感がしてきたので、「味わいながらじっくり食べる」方式から「ひたすらビールを飲みまくって、酔っぱらった勢いで飲み込もう」方式に変更しようと思った。
伊勢エビ1尾、サザエ3個、黒鯛1匹、合計5000円弱。
非常に安過ぎる。安くて大丈夫なのか。胸騒ぎ一杯で満ちあふれ処刑台に登るような気分なのに、カミさんは、スキップしながら2階に上がろうとしている。
今回の旅行はカミさん孝行だからなぁと、無理やり自分に言い聞かせた。

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